3. いじめも遊び?

 愛知の中学生の男の子がいじめを苦に自殺をするという事件がありました。数人がかりで川の中に沈めたり、何万円ものお金を盗りあげたり、遺書に記されたいじめの内容は想像を絶するものがありました。

 その後の報道の中では、「あそんでいるつもりだった。死ぬとは思わなかった」というような「いじめた子」の声が紹介されていました。自殺した子も含む彼らのグループは、最初のうちは家に行き来するような「あそび友だち」のように見えたのが、いつのころからか自殺した子に対する脅しや暴力、恐喝などの犯罪にも匹敵する行為がグループ内のおもしろい「あそび」としてエスカレートしていったようです。彼らは、自殺した子の家から持ち出されたお金を使って、ゲームセンターなどで「ゲームあそび」に熱中していたのです。

 今の子どもたちにとっては、こういう「あそびの世界」がごく普通になっていることを私たちはよく知っておく必要があります。バレンタィンデーの日に石ころをていねいにラッピングして届けた低学年の女の子たち。人の悪口が書かれた便箋をコンビニでコピーしてクラスの子に配り、「あの子はこんなことを書く子だからつき合わない方がいいよ」と一人の子を八分にしようとした高学年の女の子たち。嫌がる子をプロレスごっこに誘い、技をかけて痛がるのをげらげら笑いながら見ている男の子たち。野球やサッカーで遊ぶと「へたくそ!ルールも知らないのかよ!いつまでやってんだよ!お前なんかやめちゃえ!」とちょっと失敗した子に罵声を浴びせかけたりする男の子。子どもたちといっしょにいるとこんな光景にしょっちゅう出会います。

 彼らは、決してこうした行為を「いじめ」だとは思ってはいません。「ちょっとしたユーモアよ。そんなことに真剣になるなんてねー」「悪口を書いた子がいけないんじゃない。私たちの方が被害者よ!」「俺たちはただ遊んでいるだけだよ。あいつだって楽しんでいるんだからいいじゃないか!」「あいつのおかげでチームが負けちゃったんだよ。ルールがわからないならやらなければいいでしょ!」軽い気持ちで注意をすると、猛烈な勢いで反論が返ってきます。

 児童館に来る子たちは、よく「むかつく」という言葉を使います。「今日むかついたよねー」「だいたいからあの子はむかつくんだよ」階段ですれちがっただけでも「なによ!むかつく!」の一言が発せられたりします。「むかつくってどうなるの?」と聞くと、「ムカムカするんだよ」「どのへんが?」「このへんぜんぶ」と胸のあたりをさする子どもたち。「気持ち悪いんだったら、しまっておかないで全部吐いちゃったほうがいいよ」冗談ともなく言うと、三〇分ぐらい学校や先生や親や友だちの事などよくもこれだけ人の悪口が言えるなという程しゃべりまくります。特に女の子たちは、人の悪口を並べ立てる事で自分のストレスを発散しているかのようです。口下手な男の子たちはそれを体で表現しようとします。先に述べたプロレスごっこは、もっとも気軽な方法なのでしょう。