5. 子どもたちの仲間づくりは親たちの仲間づくりから

 さて、「地域の子どもたちが成長しあえるような集団を育てる」と言っても実際は雲をつかむような話で具体的にどこから足をふみだしていったらいいのかが問題です。「思いはあっても、なかなか現実のものにならない悩み」は、どの地域にも共通のものではないでしょうか。

 東京には23区だけでも600ヶ所以上の学童保育があり2万人もの子どもたちが通い、その親たちの共通の課題として「卒会後」の問題があるにもかかわらず、一部のOB会なるものの取り組みを除いては、大きな運動になりきれていません。

  • 「留守番ができる」ようになり、それなりに自分の生活をコントロールできるようになって、学童保育に子どもを預けざるを得なかった親の側の理由の大半がなくなったこと。
  • 子どもが自立しはじめ「親の思うまま」にならなくってきて、あとは「子どもどうしのこと」だから「あまり友達関係のことで親が口だししても…」という気持ちを持ち始めること。
  • 子どもが卒会を迎える親の年代が職場においても中堅として非常に生活が忙しくなり「子どもをかまっている余裕が精神的になくなってくる」こと。


などが精神的にも物理的にも保育園を作りだし学童保育を増設してきたときのような爆発的エネルギーとなってこない理由として考えられます。

 第一の理由との関係では、単に日々の放課後の生活問題としてではなく、我が子がおかれている学校や地域の中で、どのような生きかたを子どもたちにさせていくのか、集団の中での成長をどう見るのかをきちんと押さえる必要があるということは、すでに今まで繰り返しのべてきたところです。

 第二の理由も同様に今の子どもたちが置かれている状況は子どもたちの力だけで、もしくは、一親の力だけでのりこえられるものかどうかをはっきりさせていくことより一定の理解を得られるのでは、と思われます。

 第三の理由については、前二つの課題をどれだけ自分のものとして論議し一人一人の確信とすることによって「よし、親のためにも、子どものためにも、ひとはだ脱ぐか!」という決意が生まれてくるのだと思います。仕事が忙しくなり、精神的にも時間的、肉体的に仕事への比重が高まる時にこそ子どもたちの変化を見逃さない親子関係がなお一層必要になっているのです。

 子どもの発達段階からしても、急激に成長する時期にあり、思春期にむかって不安定になる時期です。身体の急成長と精神のアンバランス。大人に依存していた低学年時代の価値観と子ども社会の中で作られる価値観とのギャップなど低学年の時以上に子どもたちがいろいろな問題にぶつかって行きます。その中で人生観のようなものの芽も生まれてきます。

 子どもたち自身に問題にしっかり立ち向かわせながら、人生の先輩として、押し付けでない「援助」「助言」を子どもたちに与えてやるためにも、改めて親たちが、地域の子どもが見えるような仲間関係を作りだして行くことがますます重要になっているのです。

 先の父母会がそのあたりをどのように話し合って来たのかをひきつづき見てみたいと思います。

 「やっぱり集団の中で子どもを育てることが大切だね」と確認してからは、どのような子どもの集団をつくっていくのか、どのような活動を子どもたちにさせるのか、その中でどのような子どもたちに育てたいのかと話は進んでいった。「放課後の生活をどうするのか」と話し合った二十数回の話し合いの中で確認できたことは次のようなことだった。

 

  1. 学童クラブで三年間いっしょに生活したつながりを切らずに、四年生になる子ども全員を「子ども会」という形で集団としてまとめていきたい。
  2. 4年生だけの組織を作るのではなく、5年生、6年生にもよびかけ、異年齢集団としての良さを発揮できるようにする。
  3. まとまりを崩さないためにも定例で子どもたちの集まりを持つ。
  4. 来年3月に卒会する子どもの事も考えタテの線をしっかり作り、子ども会の行事にも参加を呼びかける。
  5. 学童クラブを卒会した子どもたちだけでなく、学校の友だちも子ども会にさそって、いっしょに遊べるようにする。
  6. 地域の子ども集団として、中学校や高校までも展望して地道に活動していく。
  7. 子どもたちを指導してくれる指導員をできるだけ早く探す。
  8. 親は子どもたちが自主的に運営し活動できるように、側面から援助していく。
  9. 親どうしのつながりを強め、子育てや学校のことなどについての悩みや意見を率直に出し合い、助けあって、解決の方法をみんなで見い出す。

 

 

 この9点を基本線にして、子どもたちにどのような活動をさせたいのかを出し合った。全員が4年生だったこともあり、当面、4年生の1年間の活動のイメージについて、出し合いながら話をすすめていった。

 

  1. 体づくり、集団あそびを中心に頭をきたえることもやる。
  2. 3~4か月のサイクルで、子どもたちの希望を尊重して取り組む。
  3. 男女いっしょに取り組めるものを考えると同時に男の子らしいもの女の子らしいものも考える。
  4. 年間を通しての目標をもつ。例えば、オリエンテーリング50キロメートルなど
  5. 社会科見学や、野鳥調査、タンポポの研究、工作など頭を強めることもやる。
  6. 毎週土曜日の3時から5時までみんなであつまり、なにかを取り組む、そして、毎月第3日日曜日に親子でどこかへでかけるか、地域で何かをやる。
  7. 土曜日については、学童クラブの子どもたちといっしょに遊ぶプログラムを時々、先生につくってもらう。また、親が交代で子どもたちの活動につく、ボランティアを探す。
  8. 子どもたちにはいくつかの班を作らせ、世話人を決め、毎週集まって話し合う。子どもたちには何をやりたいのか率直に出させるとともに、取り組みのあとでは、必ず反省会をやる。

 

 親が話し合った内容を受けて子どもたちに次のような提起をし、子どもたちの「約束」としていった。

 子どもたちの中にもまだ卒会して以降の自分自身の生活のイメージがまだ持てない段階だった。子どもたちからは「そろばんを習って、3級をとるまでがんばりたい」とか「スイミングでがんばる」とか「塾に入って勉強をがんばる」「学校のクラブをしっかりやりたい。」「野球チームに入ってレギュラーをめざす」「学校の友だちと遊ぶ」などが4年生になってからの自分の目標として、出されてきた。

 子どもたち一人一人の持っているこうした目標を励ましながら、「これからもみんなでいっしょに楽しいことができるように相談しながら進めていこう」という提起は、異存なく受け入れられていった。

 子どもたちが話し合ったことは、

  1. 4年生になってからもヒマな時はクラブに来て、友だちやクラブの下級生ともいっぱい遊ぶ。
  2. 「子ども会」がたのしくなるように、子ども会で遊ぶことや行事はみんなで相談して決める。
  3. けんかをしたり、いやなことがあっても、子ども会を休んだりせずに、お父さんやお母さんと相談したりみんなで話しあったりする。
  4. 活動日には、来年4年生になる人や、学校の友だちもさそっていっしょに遊ぶ。


 ともかく、「子ども会」作りへの第一歩をふみだした子どもたちに対し、父母も学童保育の父母会を卒業し、みんなで確認した内容そって「子ども会・父母会」づくりにとりかかっていった。

 その中で、いちばん話し合ったことは子ども会の活動を通してどういう子どもに育てていくのかということだった。「思いやりのある子に」「あいさつがきちんとできるように」などいろいろな意見が出され、なんとか6つの項目にまとめることができた。

 そして5月、いよいよ子ども会の正式発足を迎え、父母は父母総会、子どもたちは子ども総会を開き、親子でぜんざいを食べながら、「門出」を祝ったのだった。


 いかがでしょうか。「高学年の子どもたちの生活を親子が力を合わせて作り上げていく」ための数ヶ月がかりのとりくみを紹介してみました。卒会にあたってどの親も持つ「不安」から出発して、「子ども会づくりへ」の長い歩み。

 何でそこまでやる必要があるの?という思いもあるかもしれません。しかし、子どもたちが置かれている状況を考えた時に、ぜひ、どこの父母の会でも「不安の出し合い」にとどまらない話し合いの積み上げをお願いしたいのです。

 子どもたちの人間的で豊かな成長のために!