7. 学童保育を卒会したら少年団をつくろう

 学童保育を卒会するにあたって、高学年の子どもの成長、発達はどうあったらいいのか。子どもたちの放課後の生活を人間的に豊かにするための親が果たさなければならない役割とは、子どもたちが夢中になって取り組んでいる様々な活動の評価と課題などをこれまで述べてきました。

 

 これらのことが父母の間で充分話し合われることを期待しつつ、ではどうするのかという部分で子どもたちの仲間づくりの活動を「少年団をつくる」という形で具体化することを提起したいと思います。


子どもたちの夢を結ぶ場


「この二日間、一番大きく感じたのは、あの小学生たちの歌声、真剣な瞳のすばらしさだと思う。うたごえのおおきさ、リズムにのって思い切り体を動かしている。みんなそれぞれに夢をのせているんだと思った。その夢に近づいて行くときはどの子も本当に真剣になっている。そうなると私も負けてはいられない、自分もいっしょになって愉快にいろいろなことをやってしまう。すごく気持ちがいい。体を使って遊ぶ楽しさ、大声で歌えるすがすがしさを忘れていた私に、それを取り戻してくれた。」


── 少年団の行事に参加した中学生の声です。


 小さい子も大きい子も一人一人が大事にされ、誰もが参加でき、馬鹿にすることなく、いい面を評価しあいながら、お互いの「夢」を実現するために、お互いの手を必要としあえる。そんな場を地域につくりたいという子どもや親が力を合わせて作りだしていくのが「少年団」です。

 

  • なかよくげんきに、大きな声を出せる少年団
  • おにぎりのようにまとまって、一人一人が思ったことをいえる少年団


 ある少年団の子もたちが決めた目標です。「少年団」は子どもたちが自分たちの「仲間と思いっきり遊びたい」「ほんとうの友だちをいっぱいつくりたい」という願いも自分たちで実現していくための「集団」です。子どもたち一人一人の顔が違うように「少年団」もそれを作りあげ支えている子どもたちによってそれぞれの顔があり目標があります。


 どろんこ少年団、杉の木少年団、サンフラワー少年団、桃栗柿八少年団、かまきり少年団、やきいも少年団、太陽少年団、おにぎり少年団、太陽の子・風の子少年少女団、大空少年団…などなど。子どもたちによってつけられた名前もさまざまです。そしてそのひとつひとつに子どもたちなりの意味が、夢がこめられているのです。


 わたしがちが少年団をつくろうという時、それは、塾や習いごとに通うように、またはボーイスカウトに入れるように「型」にはまった「集団」に子どもを入れて「しつけ」をしようというのとは、違います。


 少年団を地域に親たちの共同の力で作りだすということは、子どもたちが自分の頭で考え、自分の望むものをはっきりさせながら仲間といっしょにその現実にむけてがんばろうとする子をみんなの力で育てて行こうということなのです。


 だから、働く親たちの共同の子育ての場としてはじまった学童保育によく似ています。低学年の時期だけでなく、「子どもたちを一人前の人間に育てる」ために学童保育を経験した親たちがもうひとふんばりがんばることを期待するのです。


 「少年団」をつくる仕事を通して地域の多くの親子と知り合い、子どもたちが友だちのことで問題をかかえた時に相談にのってやれる親、子どもが生き生きする時をよく知っていて励ましてくれる親に親自身が育っていくこと、それはまた子どもたちの願いでもあるのです。


少年団のつくり方


 では、どうやったら「少年団」を作り出すことができるのでしょうか。


 卒会後の子育てについて同じような思いや不安を持っているといっても、お互いにそれを出しあって見なければわかりません。先に、ある学童保育クラブの父母の会の話し合いの経過をていねいに見てきましたが、まず親が集まってどういう子育てをしていこうとするのか、改めて話し合うことが大切です。その際、お互いの子育て観の違いを強調するのではなく、一致できる点は何なのか、それを実現するためにどう力を合わせられるのかをねばり強く話し合うことが必要です。


 「今」のことだけでなく、中学生、高校生を見通してどんな子に育てて行くのかを考え合っていくことも必要でしょう。学童保育や児童館の先生たちからその地域の子どもたちの状況を聞いたり、学校の先生たちの助言を受けたりすることも大切です。また、すでに少年団を作り育ててきている父母の経験から学ぶことは、より重要です。


▽ まず、親が率先して楽しいことをやる


 子どもたちは「必要性」だけでは、動きません。「少年団をつくりなさい」といってできるものでもありません。みんなで相談しながらいろいろやるのが楽しいと思えるように、とりあえずは、親たちがどんどんアイディアを出して、子どもたちの意見も聞きながら楽しいことをいっぱいやって行きましょう。学校の友だちに招待状を出したり一緒に相談に加わってもらうように誘うなどの活動も少しずつ取り入れていきましょう。


▽ 先輩の少年団から学ぶ


 少年団は、子どもたち自身が、自分たちの夢を仲間と力を合わせて実現して行く場です。そのためにどのような集団を作っていくのかということは、行事の積みかさねだけで自然とわかるというものでもありません。近所にある先輩少年団や、少年少女センターの取り組みに参加して、話し合いの進め方や、決定のしかた、リーダーの動きかたなどを子ども自身が体で学びとって来ることが大きな力になります。

 

▽ 青年指導員を探す


 学童保育でも子どもたちの集団活動を組織し、子どもたちの生活を生き生きとしたものにする上で指導員の役割は決定的なものがありました。少年団では学童保育のような専門の指導員をみつけるというのは困難ですが、高校生や大学生など子どもたちの活動に関心をもっている青年にお願いしてみましょう。

 

 「小学校のとき初めて「指導員」という年上の人と接して、それまでは同級生と遊ぶくらいしかなかったから、とっても嬉しかったのを覚えています。大きな声で歌を歌ったり、踊ったり『よく、こんなことをやるなー』と思ったけど、でも『何か新鮮でいいな!』と思った。『僕も高校生になったら指導員になりたい』とその時点思うようになって、それからずっと少年団を続けてきました。」


 小学生の時に少年団活動に始めて参加した子が高校に入学し、晴れて自分の目標だった指導員になった時の言葉です。


 高校生や大学生では、専門家のような立派な指導はできないかもしれません。しかし、失敗を恐れずに挑戦する姿勢、子どもたちと一緒に悩み、子どもたちとともに解決しようとする姿勢は、専門家以上のものがあります。


 子どもたちは自分たちよりもちょっと年上の仲間を強烈に求めています。特に小学生の間はその気持ちがより強くあります。指導員が見つかることにより子どもたちの活動は、自立への道を一歩ふみだしはじめるのです。


▽ 「少年団をつくる」決意を


 何回かとりくみを重ねるうちに活動にいつも意欲的に参加してくる子どもたちの姿がはっきりしてきます。しかし、そのままでは、少年団にはなりません。「少年団を作ろう」という思いを子どもたちの中に育てていかなければなりません。


 「少年団」と一口に言っても子どもたちには雲をつかむような話です。子どもたちが「少年団」を自分の身近に感じられるようになり、自分たちの少年団がほしいと思うようになるためには、具体的なモデル…生き生きと活動する少年団の子どもたちの姿を、強烈なイメージで子どもたちのものにしなければなりません。


 身近にある少年団の取り組みや少年少女センターの取り組みに参加すると同時に、子どもたちの「やる気」の盛り上がりを見極めながら、一定の時期に「少年団をつくる決意表明」の場を作ってもらうことが必要です。


 少年団は親が作るものではありません。親たちがどんなに強く望み、つくりたいと思っても肝心の子どもたちのやる気を引き出せなければ少年団は、生まれてこないのです。ここに少年団の活動の難しさと醍醐味があるのです。


▽ 結団式を準備する


 少年団という子どもの集団は一つの組織です。ですから「子どもたちの決意」だけで「組織」にはなり得ません。子どもたちの決意が固まったらいよいよ組織づくりに向けて子どもたちの活動がはじまるのです。


 いくつかのポイントをあげてみると


少年団の名前をきめる … 一番楽しい作業です。みんなから名前の案を出してもらいなぜその名前がいいのかを発表し合い自分たちの作ろうとする少年団のイメージにぴったりするものをみんなで相談して決めます。名前をつけることで「自分たちの少年団」という気分がグッっと盛り上がっていきます。

 

少年団のシンボルを決める … 「団旗コンクール」などを工夫して旗のデザインを考えたり、ネッカチーフなどのシンボルを考え合うことによって「少年団員としての自覚」が高まっていきます。

 

少年団の目標や約束を決める … 少年団は自分たちのものです。自分たちの少年団をどんなに楽しいものにするかという目標、そのためにこれだけは、みんなで守ろうという約束づくりの中で子どもたちは、「楽しいから来る、つまんないから行かない」「あの子とけんかしたからもうやだ」といった自分の気分感情だけを優先する生きかたから、仲間のことも思いやり「いやだと思うこともともに乗り越えていく道が見えてくるようになるのです。


▽ 子どもたちの活動を励ます「少年団父母会」をつくる


 子どもたちの話し合いもすすんできました。親たちの子育ての願いが、いま、地域に「少年団」として、現れようとしています。実はここが、「一人前の子どもたちを育てる」ために親たちがよりがんばらなければならないスタート台なのです。


 子どもたちが少年団をつくり、組織的な活動をはじめていけばいくほど、地域が子どもたちにとってなんて住み辛いところなのかがますます見えてきます。20人近い子どもたちが集まって思い切り走り回ったり、大声で歌えるような場所が地域にどれだけあるでしょうか。子どもたちが気兼ねなく話し合ったり、集団で作業をしたりできるような場所がどこにあるのでしょう。子どもたちがのびのびと活動できるような空間を用意すていくのは、大人の責任です。


 少年団に関わった子、誰もが豊かに成長できるように子どもと指導員の活動を見守り、子どもたちの変化を親どうしの話題を常にし、元気が無い子や親がいれば励まし合うような生きた関係を親たちも作り出さなければなりません。学童保育の父母活動でつちかった力を生かして、子どもたちに負けない、立派な「少年団父母の会」を作っていきましょう。


▽ いよいよ団結式 地域に認められる


 子どもたちの話し合いもでき、父母の会も準備できたらいよいよ団結式です。


 団結式は、少年団がこれから地域で活動を始めるということを、地域の人たちに認めてもらう会でもあります。友だちや仲間の少年団の子どもたちに祝ってもらうことはもちろんのこと、学校の先生や町会の育成会の人、学童保育や児童館の先生なども招待し、子どもたちが自分たちの力で地域に一歩ふみだすことを理解してもらい、暖かい目で見守ってもらうようにお願いしていく場でもあります。


 「卒会にあたって放課後の生活が心配」という親の率直な不安を出発点に始まった取り組みが子どもたち自身の取り組みとなり、社会的にも自立するための「団結式」を迎える。親は父母の会に集まり子どもたちの自主性を大切にしながら、子どもたちの活動を側面から援助していく。団結式は、親にとっては子どもが高校生や大学生になり、指導員として改めて主体的に活動に関わってくるようになるまでの、息の長い取り組みの出発点なのです。