2. ますます競争の中で

 こうした、困難がなぜ続くのか、その背景を探り根本からあらためることが必要です。


 国や文部省は、「わが国が世界的な大競争次代の中で確固たる地位を築いていくためには…心の教育を重視ていくことが必要である」(教育改革プログラム)と言い、具体的には、学校の複線化や入学年齢の弾力化、「平等で画一的」な今の学校運営を「自由化」して、「特色ある学校」づくりを行わせることで学校の選択幅を拡大することを強調しています。


 品川区でいち早く小学校区の自由化が打ち出されましたが、やはり「進学率の高い名門校」と言われる学校への入学希望者の集中があり、「自主的な選択」の名のもとにこれまで以上に子どもたちを進学競争に駆り立てるものになる恐れがあります。(詳しくは、立柳論文を学習してください)


 私たちが地域の活動を進めるときにいちばん頭を悩ませるのが親の価値観の問題です。どの親も子どもたちの遊びや友だち関係の大切さを認めています。が、それ以上に、「いい学校に行くこと」「スポーツや音楽で名をあげること」のほうがより大事という価値観が拡大再生産され続けています。


 高学年になると塾やおけいこごと、スポーツ少年団などで忙しく地域やPTA行事に子どもが参加しなくなる傾向がどんどん強くなっています。子ども会や少年団の取り組みの中でも、「遊び会や青空学校に集まるのは低学年がほとんど、夏のキャンプも6年生の参加が少ない」などの報告が各地から聞こえてきます。

 

 この本に載せられているレポートで岩間さんは、

 

『小さい時から「いい子」のレッテルをはられていた、ひとりっ子のぼくは、小学校5、6年生の時には電車に乗って塾に行っていましたから、塾に行って遊ぶとか、教室の空き時間に消しゴムを使って遊ぶとかした思い出しかありません。つまらなかったとか、淋しかったとか思った記憶もないけれど、かといって本気でけんかもしなかつたし、何かいつも淡々として生きていたように思うのです。 

 

と言い、さらに、

 

親からの愛情と共に期待を感じて育ってきた上に、早くから塾などに行っていたのでそこそこ人よりは勉強もできたこともあって、正解を出すことに慣れていて、逆に失敗することがとても怖い子どもになっていました。

 

と言っていますが、こういう価値観のなかで育った子がいま親や教師になって子どもを育てようとしているのです。


 公立小学校の山崎先生は、漢字テスト45点で『ためだ!だめだ!』と言って、窓枠に飛び付いて『死ぬ!死ぬ!』とやってしまう子がいます。掃除ロッカーに閉じこもってしまったときに、だれもいないトイレにつれていって話をしました。『つらかったか?』と聞くと、ヒーと言って泣き出して抱きついてきた。おぶってやったら安心してしがみついてきました。その子の父親は、帰ってきてテストを見て1問でも間違っていると怒る。母親も7時から9時まで勉強しろというのです。と子どもの苦悩に寄り添いながらその背景に父親や母親の価値観があることを見ていました。「選択」と言う名の「競争」を激しくすることは、この子はもちろん親までもますます苦しめていくことになるのです。