アウトドア講座:キャンプで食事をつくる
食事をつくるためには、火を使います。火も人間だけが手に入れることのできた、もっとも基本的な文化の一つです。
火薬を細い軸木の上につけたマッチの発明は、火をだれにでも、いつでも必要なときにつけることができるという点で身近な物にしました。ライターは、それをさらに便利にしただけでなく、おしゃれの分野にも火の文化を発展させました。
マッチをすれない子の問題がよく言われますが、手先の器用さの問題をこのように表現するのは、どうでしょうか?テレビゲームのボタン操作についていけない大人を笑う子どもの心境と同じになっていないでしょうか?
電熱による点火から、圧電素子による点火、ICによる点火と火を起こす技術は、どんどん進歩しています。
それなのに、マッチによる点火とその練習を子どもたちにさせるのは、なんのためなのでしょうか。
大昔の人たちは、木と木を擦りあわせる摩擦熱や、硬いものどうしを衝撃的にぶつけたときにできる火花を利用して、燃えやすいものに火をつけてきました。
現代の技術からすれば、圧倒的に不便なことを子どもたちのキャンププログラムになぜ入れるのでしょうか。
体験させることで、子どもたちが感じることは、いくつもあります。だからこそ、火をつけること一つにも、子どもたちに伝えたいものをはっきりさせて指導することが大切なのです。
マッチのすりかた一つにも、手前から先にむかって、する方法と、逆に向う側から手前にむかってする方法があります。日本人は、前者が多いようですが、西洋人は、後者が多いようです。このあたりは、ナイフの使い方と似ていて、どうしてそうなるのか興味があるところです。
さらに、子どもたちにやらせると、右手に持ったマッチを動かすのと同じタイミングで左手に持ったマッチの箱についた側薬をマッチとは、逆のほうにすばやく動かし、着火させるということがとても難しいのがわかります。
マッチの使い方一つにも民族性があり熟練が必要なのです。
原始的な火起こしに挑戦することが最近はやっているようです。摩擦熱による方法、火打石のような打撃による方法などがありますが、取り組みやすいということで、摩擦熱による方法がよく子どもたちのキャンプでは行なわれています。
指の太さぐらいのあじさいの枝や、竹の棒を両手ではさみ、切り込みを入れた杉の板などに強く押しつけて、すばやく回転させることで火を起こす方法です。
最初のうちは、何回やっても失敗するのですが、慣れてくると10秒も経たないうちに火種を作ることができます。
煙草の火ほどの小さな火種を蒸し焼きにした綿や麻の繊維のうえに落し、さらに燃えやすいものを乗せて軽く息を吹きかけると、思った以上に簡単に火をおこすことができます。
昔の人は、木を燃やしたあとの灰のなかに、炭状になった燃えさしを入れ、翌朝まで火を保存する方法なども考え出していますが、火おこしそのものの技術を高めることで、乾燥した材料さえあれば、いつでも火を手に入れられるーそういう意味では、現代人と同レベルの水準に達していたのではないでしょうか。
テレビの時代劇を見ると、よく女の人が行燈に火打石で火をともす場面が出てきます。しかし、実際にやってみるとこれはなかなか難しいものがあります。まず、なかなか思った方向に火花が飛びません。油のうえに火花が落ちると、油の温度が低いので、すぐに消えてしまいます。油をしみこませたこよりのうえに上手に火を落せるようになるのには、ものすごい練習が必要です。
キャンプファイヤーなどでは、演出の一つとして、電気を使った点火を考えてみてもおもしろいでしょう。
アルコールを染み込ませた布にニクロム線で火をつける方法が簡単です。エールマスターや火の神の言葉が静かに流れるなかで、だれも手をふれないのに、自然にファイヤーから炎が上がってくるのは、感動的です。