児童の放射能被爆についての理事長見解

放射能被爆についての少年少女センターとしての指針(理事長見解)

2011年4月24日 東京少年少女センター理事長 神代洋一

 

 文部科学省は、4月19日、「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」と言う通知を福島県教育委員会等に通知したと発表しました。

 

 私たち、少年少女センターは、「安全で平和な子ども社会の創造」を目標の一つに、子どもの仲間作りを中心とした地域活動に長年取り組んできました。そうした立場から、これまで、年間1ミリシーベルト(1msv)以内と決められていた基準値を「非常事態」として年間20ミリシーベルト(20msv)までに緩めるという今回の「考え方」については、大きな問題を感じています。

 

 福島第一原発の事故対応が長期化する中、国民の被爆への不安が高まり、私たちの東京都内の活動の中でも「水道の水は飲んでもだいじょうぶなのか」「幼稚園や学校から、水筒を持ってくるように言われたけど、やっぱり水道の水は飲んではいけないのか?」「雨にあたってもだいじょうぶなのか?」「屋外でのあそびや活動は控えた方がいいのか?」と言う質問が親たちから発せられるだけでなく、テレビのニュースを見た子どもたちからも不安の声が出されています。

 

 親も子も、いままで聞いたことのない放射能や放射線の単位や数値がさまざま言われる中で、何を基準に自分たちの生活を守ったらいいのか、混乱の中で、ひたすら一刻も早く原発事故が収束し、放射能の危険が去ることを願って日々の不安に立ち向かっています。こうした中でこれまでの安全基準をいきなり20倍にも引き下げてしまう今回の「考え方」は、こうした親や子どもたちの日々の努力になんら応えるものにはならず、むしろ、「やっぱり危険なんだ」と言う不安を増徴するものにもなりかねません。

 

 これから夏に向かって、屋外での子どもたちのあそびや活動が活発になって行きます。さらに節電の影響でクーラーを使用できないと言うことになれば、室内にこもることもできず、涼しい日陰での活動を余儀なくされることにもなります。

 

 事故のあった原発をとりあえず安全と言う段階に持っていく工程も6ヶ月から9ヶ月と言う長期にわたることになり、このスケジュールすら今後の状況の変化や、引き続き警戒しなければならない余震や津波の状況によっては、さらにたいへんな事態も想定しなければなりません。

 

 少年少女センターに関わる人たちの中にも、これからの活動をどのように考えたらいいのか、不安を感じ、悩んでいる人が多くいます。そうした方々が、地域で親や子どもたちと話し合う際の参考にしていただくために、私案となりますが、いくつかの指針を示します。

 

  1. 自然界にある放射線以外の人工的な放射線については、「子どもにとって安全な被爆はない」と言う立場に立ち、できる範囲でリスクをさける努力をしましょう。
  2. 国際的にも国内法的にも確認されてきた、年間1msv以下と言う安全基準を守るよう努力しましょう。
  3. 新聞やホームページで発表される空中放射線の値に注目し、毎時0.1マイクロシーベルト(0.1μsv/h)を超える値になったときには、屋外での活動について考慮しましょう。※
  4. 活動の記録(参加者・活動時間・活動場所・活動内容)をつけ、主体的にリスクを管理するようにしましょう。
  5. 親や子どもの不安を丁寧に聞き取り、みんなで学び、考え合い、主体的な行動ができるよう育ちあっていきましょう。
  6. 環境による低レベル被爆は、被爆する時間×被爆量が高くなるほどリスクが高まります。数時間から数日単位の活動については、ことさら神経質になることはありませんが、新たな事態が起こり、短時間に急激な放射線の増加がある場合も考えられます。活動中はラジオなどのニュースをこまめにチェックし、不測の事態に備えましょう。
  7. 放射能の問題に限らず、日ごろから子どもたちの安全に配慮した活動を心がけ、子ども・父母・住民が主人公の活動を作っていきましょう。

 

※ 年間1msv=1000μsvなので、1000(μsv)÷365(日)÷24(時間)≒0.11(μsv/h)で1時間あたり約0.1μsvとなります。これは一日中屋外で1年間活動したときの値となります。発表される測定値には、自然界の放射線量も含まれますし、外部被爆だけでなく、呼吸や水・食べ物などによる内部被爆も検討に入れなくればなりませんが、いずれにせよ、発達段階にある乳幼児や18歳までの児童については、2倍から3倍の厳しさで捉えることが大切と考え、情報として手に入りやすく、覚えやすい数値として空間放射線の数値、年間1msv、時間当たり0.1μsvを考慮の基準としました。


【参考資料1】
都内の放射線量については、健康安全研究センターのホームページに発表されています。この数値には、自然界に通常存在する放射線も含まれています。数値の見方については、ホームページ内の記事を参考にしてください。

【参考資料2】

都道府県別の放射線測定値については、文部科学省のホームページに掲載されていますので参考にしてください。

【参考資料3】
日本弁護士連合会会長声明(2011-4-22)
「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」に関する会長声明